レビュー 書く力 私たちはこうして文章を磨いた 

自己啓発本 国語

池上彰、竹内政明著の「書く力 私たちはこうして文章を磨いた」について、書籍の概要説明、どのような方にお勧めできるか、また実際に本書で触れられるテクニックを少し紹介します。

本の概要

概要

ついに夢の対談が実現!個性的でありながら、多くの人に読んでもらえる文章の書き方とは?

わかりやすく切れ味の良い文章の第一人者・池上彰さんと、「読売新聞の一面を下から読ませる」当代一のコラムニスト・竹内政明さんは、どのようにして文書を磨いてきたのか。テーマの決め方、構成方法、稚拙な表現からの脱出方法などを、惜しみなく披露する。作文の魅力がわかり、どんどん文章が書きたくなる一冊!(表紙の裏より引用)

池上彰氏と竹内政明氏の対談形式で、巧い文章を書けるノウハウを紹介。文の構築方法の説明に多くページが割かれており、新聞の社説の様に着地点が気になる巧みな文章術を学ぶことができます。

目次

1章 構成の秘密 -「ブリッジ」の作り方-

2章 本当に伝わる「表現」とは

3章 名文でリズムを学ぶ

4章 悪文退治

スペック

サイズ:新書

ページ数:201

発行:2017年1月30日

著者:池上彰 竹内政明

発行:朝日新聞出版

こんな方にお勧め

池上彰氏・竹内政明氏のファン

本書は、池上氏と竹内氏の対談形式によって展開されます。池上氏が竹内氏の秘儀を引き出すのが主な流れで、お互いをリスペクトしている事が感じられます。

対談形式という形式上、会話が延々と続く為にポイントが掴みににくく、読了に時間がかかるという難点があります。しかし、1つの論点に対し2つの角度から物事を見ることができ、1回で頭に入りやすい印象を受けました。補足やフォローがあるため、幹となる部分の理解は早いかもしれません。

池上氏はメディアの露出も多く、先日の参議院選挙の際も自身の特番をお持ちでした。竹内氏は書籍を出版されていますが、対談をしている姿を目にしたのは初めてです。元記者の2人が互いの技術を引き出そうとする姿は必見です。

そもそも池上氏と竹内氏って誰ですか……。と、いう方のために、以下で2人の事を簡単に紹介させてください。

池上彰氏について

1950年生まれ、長野県出身。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局し、記者経験を重ね報道局記者主幹を務める。その後「週刊こどもニュース」、「オトナへのトビラTV」、「メディアのめ」などに出演。退局後はフリーのジャーナリストとしてテレビ・雑誌や書籍など数多くのメディアに出演し、大学教授として教育にも携わる。

私は池上先生は50代前半かと思っていましたが、70代だと知り驚きました。バイタリティ溢れ、とても70代には見えません。選挙特番でも大活躍。インタビューと称して、ニコニコしながら候補者を料理する姿が好きです。出演される様々なテレビ番組では解説者として出演される事が多く、池上彰氏より物事の説明が上手な方を私は知りません。

竹内政明氏について

1955年生まれ、神奈川県出身。北海道大学卒業後、読売新聞入社。読売新聞のコラムである「編集手帳」第6代目の担当者で、2001年から2017年まで務める。

「編集手帳」は内外のニュースから方の凝らない暮らしの話題まで多彩なテーマを自在に料理し、世相を約460文字で活字するコラムです。1949年(昭和24年)に創設され、「雑誌の編集後記のように」とのアイデアで名付けられました(読売新聞HPより引用)

編集手帳の担当を辞した理由が「体調不良」だったと記憶しているのですが、その後は回復されたのでしょうか。コラムは会社間で比較される物だと思いますが、それを16年に渡り書き続ける精神力に敬服。大学受験や入社試験の為に、編集手帳に目を通した方もいるのではないでしょうか。

巧い文書を書きたい方

本書は、巧い文書を書きたい方に向ける教科書だと感じました。一方、業務文書であるレポート、論文や報告書など、単に情報を伝える目的の文書を書きたい方には向かないと思います。

私は、巧い文書とは読者の知的好奇心をくすぐるものだと思っており、端的に要点を伝える業務文書とは目的が異なると考えています。

作中でも池上氏は「うまい文書だな、面白い話だなと思うものの多くは、話がどう転がっていくのかがわからなくて興味をそそるものになっています」(p17)と述べています。

竹内氏が担当していた「編集手帳」は、新聞のコラムであり、報告書などの様に「読む必要がある物」ではありません。興味が薄い読者にも「読ませる技術」を用い、興味を惹かせるためにあえて結論を遠回しにしたり、読者もそれを楽しむ節があります。

テクニックを紹介

本書は巧い文書を書くためのテクニックの宝庫です。文章の構築方法といった大枠から、そこまで気にするのかといった小技まで数多く説明されています。ここで少し紹介したいと思います。

「控えめな」表現の効用

強いメッセージを読者に与えたい場合、どうしてもインパクトのある語句を使用しがちですが、逆効果になる事もあります。竹内氏の解説がわかりやすかったので紹介させてください。

政治家を批判するときに、口から唾を飛ばして激しく怒ると、読者はその政治家の味方に付いてしまう。激しく批判したいときほど、8割くらいの力に抑える。すると、「手ぬるいな。もっと怒っていいんじゃないか」と読者が怒る側にまわるんです。(p108

少し甘いんじゃないかと思わせると援護射撃が期待でき、著者がヒートアップしすぎると周りが止めに来る。これは私自身も経験しました。

自分が何を伝えたいのかストレートにぶつけるだけでは不十分で、相手がどう受け止めるか、どのように動くかを考えてボールを投げないと伝わらないということですね。

新聞記事は「人に言わせる」

竹内氏が「ものは言いよう」といいますが、「ものは言わせよう」でもあります。(p180)と述べています。

著者の意見を入れることが難しい場合(新聞では記者の意見はいれるわけにはいかない)は、著者の意見を代弁してくれる識者にコメントを求める。即ち、識者のコメントというのは記者が言いたいことであり、説得力を高めると同時に自身の意見も反映させる手段になる。

これは業務文書でも使えそうなテクニックですね。〇〇部長が言ってましたとか、○○会社がやっていますとか、PREPのEを補強するということに近いでしょうか。これなら強い文書が作れそうです。

右寄りのメディアでは識者も右寄りですし、左寄りのメディアでは識者も左寄り。受け手をどちらにコントロールしたいのか、意識してメディアに接すると面白いですね。

悪文退治の小技

「○○したいと思います」は避ける

「機会」は注意しなければいけない言葉

自慢話の打ち消し方

上記のような様々な悪文を修正するテクニックが披露されています。それぞれ、2重表現をやめましょう。「機会」という単語を適切に使えているか。自慢に聞こえてしまう話のケア方法。詳しく知りたい方は本書を手に取ってみてください。

おわりに

本書は巧い文章を書くために必要な技術が紹介されています。紹介する方法も、元新聞記者同士の対談形式と尖ったものになっており、技術を学ぶ以外にも読み物として面白いです。

池上氏、竹内氏のファンが楽しめるのは当然ですが、メディアの作り手が、技法を教えてくれる機会は貴重です。私は、新聞記者の作文技術を学び、新聞を読むのが楽しみになりました。

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